企業インタビュー
株式会社シオノ鋳工へのインタビューを行いました
2025年12月08日 丹後地域 : 与謝野町

株式会社シオノ鋳工
代表取締役 塩野 浩士様
1.事業概要
事業概要について教えてください。
当社の創業は1830年、天保元年にまでさかのぼります。与謝野の地で鋳造を始めてから、約200年という長い歴史の中で、時代の変化とともに作る製品も変わりました。創業当初の鍋や釜から、現在は産業機械・水道管部品やエレベーター部品、建設重機など、社会のものづくりを支える機械部品を製造しています。鋳物は自動車部品に使用されることが多いのですが、当社は自動車以外の部品を多品種少量で製造しています。西は広島、東は神奈川までと、全国各地にお客様がいらっしゃいます。こうしたネットワークを支えているのは、創業以来培ってきた技術と信頼です。

もう少しで200周年!2023年には、新工場を竣工されましたね。
そうですね。新工場「ZIP SQUARE(ジップスクエア)」には、鋳物の機械加工を行うZIPファクトリー、素材の開発や鋳物体験を実施するZIPラボ、手作りにこだわった料理を提供するZIPカフェがあります。機械加工は新設部門で、鋳物製品の鋳造から機械加工までの一貫製造を行うことで、お客様のコストダウンと納期安定に大きく貢献しています。
工場にカフェを併設されているのは珍しいですね。
ZIPカフェの併設は、20年以上続く社員給食にルーツがあります。以前は社員の昼食は持参が多く、既婚者や実家暮らしの社員は豪華なお弁当である一方、菓子パンやカップ麵などの栄養が偏ったものばかりを食べている社員もいました。それを目に留めた僕の母が、「同じものを食べれば、寂しい気持ちにならないのでは」という想いから、社員みんなで一緒に食べる手作り給食を始めたんです。

その取り組みがZIPカフェにつながったのですね。
そうです。この取り組みが社内外で注目され、せっかくなら社員だけでなく、地域の方や遠方から訪れる人にも食べてもらえればということで、カフェを併設しました。最初は社員1人で調理していたのですが、今では社員も約40名に増えたため、現在は2人体制でボリューム満点・栄養バランスの取れた給食を提供しています。1食450円と手頃な価格なので、今年から迎え入れたベトナム人実習生6名も、他の社員と同じテーブルを囲んで仲良く食事しています。
地域とのつながりや仲間の輪づくりを大切にされているのですね。
はい。ZIPラボでは鋳物体験も実施しており、一般の方が楽しめるキーホルダーや置物作りはもちろん、学校・企業研修などにも対応しています。また、TANGO子ども未来プロジェクトの一環で、地域の小学校に出前講座を行い、鋳物体験を通じて丹後地域への愛着を育み、ものづくりの面白さを伝える活動もしています。こうした地域に根差した取り組みを続ける中で、大阪・関西万博を契機に初開催された「丹後オープンファクトリー2025(NeoTAN)」にも協力させていただきました。三輪車レースへの参加や社員と本音で語り合うヒロシの部屋など、僕自身イベント好きなので、社外活動も積極的に行っています。


様々な取り組みを実施されていますが、その原動力は何だったのでしょうか。
僕は生まれも育ちも与謝野町なのですが、結婚して子どもを持つようになってから、学校のクラスの人数がどんどん減り、閉校でバス通学になる状況を目の当たりにして、すごく寂しい気持ちになりました。この町はどうなっていくんだろう?人口が減っていくのを何とかしたいという気持ちが強くあったんです。
心の中にあった強い想いについて、もう少し詳しく教えていただけますか。
人口減少の原因は、少子化ももちろんありますが、それ以上に若者が町を離れ、戻ってこないことが大きな問題だと思っています。そして若者が戻ってこない原因の1つは、地元の企業にあると僕は考えています。この町で暮らすお母さん、お父さんが地元の企業を良く思っていないから、子どもにポジティブな情報が伝わらず、若者がそのまま帰ってこない。今暮らしている親世代がこの町でもっと良い人生を送れるようにするには、やっぱり地元の企業が頑張らないといけない。福利厚生はもちろん、子どもに胸を張って誇れる企業にしないといけない。1社でもそういう動きをすれば、他の企業にも良い影響がどんどん波及して、地域振興に繋がっていくんじゃないか―そんな想いがありました。

自らが率先してロールモデルとなり、地域振興を目指されたのですね。
実は、僕自身も、他社の取り組みに感化されてZIP SQUAREを構想したんです。きっかけは、富山県高岡市にある鋳物業を営む会社を、社員とともに訪問させていただいたことでした。その会社は、鋳造業の地位を高めたいという想いから、工場見学や鋳物製作体験、カフェの併設などをされていて、高岡市のシンボルになっており、大変感銘を受けました。同業者がやっているなら、僕にもできる!真似してやる!たくさんの地域内外の人に見に来て、体験してもらって、鋳物屋さんってかっこいい!と心から思ってもらえるようなきっかけを作りたいと思ったんです。
同じように、当社の取り組みが、誰かの心に響き、新たな一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しいです。

2.京都府について
創業以来、京都で事業を継続していただいていますが、操業環境はどうでしょうか。
与謝野町のある丹後半島でいうと、まず、土地が驚くほど安いということが挙げられます。土地が安い分、企業にとっては思い切った投資がしやすいというメリットがあると思います。また、交通アクセスも、京都縦貫自動車道が全線開通したので、昔に比べると利便性がかなり向上したと思います。週末、伏見の方に車で行きましたが、2時間もかからずに着き、本当に便利になったなと感じました。さらに、京都府は日本のほぼ中央に位置し、西にも東にも出やすいので、その辺りも便利だと思います。人材面についても、今では外国人の方も採用できるので、田舎だから特段不利ということはないと思います。
御社は京都府の奨学金返済支援制度などもご活用いただいていますね。
そうですね。当社は鋳物業界の中でも比較的若い世代が多い会社なので、奨学金返済支援制度などを積極的に活用しています。また、新工場を建てる際には、京都府の企業立地優遇制度を利用させていただきました。調べてみると、京都府の企業立地優遇制度は近畿圏内の他府県と比較しても非常に手厚く、驚きました。

3.これからの展望について
御社のこれからの展望について教えてください。
まずは、新しく建てた工場とカフェを軌道にのせ、しっかりとした土台を整えていきたいと思っています。新工場では、仕事の幅を広げながら、新たな機械を投入して全体の稼働率を上げていく。カフェでは、もっと喜んでもらえる料理、空間、サービスを追求していく。今後も挑戦を続けていくために、まだまだ伸び代がある新拠点での安定した基盤を築くことに、力を注いでいきたいと思います。
4.京都府へ立地を検討している企業へのメッセージ
京都府へ立地を検討している企業へのメッセージをお願いします。
丹後半島は、機械金属産業の集積地であるため、関連業種には特におすすめの地域です。丹後半島には、板金加工や工作機械加工、うちのような鋳造など、様々な特色を持つ機械金属企業が密集しており、企業同士のネットワークが形成されています。そのため、自社で対応できない案件を他社に委託したり、逆に、仕事を紹介してもらったりと、事業を円滑に進められる環境が整っていると思います。
